「中秋の名月に寄せて」

中秋の名月、ご覧になりましたか。
私も雲間から美しい輝きを放つ満月を眺めながら、しばしこれまでの人生に想いを馳せることができました。

アメリカのジョン・F・ケネディー大統領が「この60年代が終わるまでに人類を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」と宣言したのが1961年5月25日。
それから8年後の1969年7月20日、3名の宇宙飛行士を乗せたアポロ11号が月面着陸船イーグルでの月面着陸に成功しました。
もう50年以上前の出来事です。

当時、私は大学の英文科の3年生。
世界同時中継のテレビ画面にくぎ付けになりました。
日本での視聴率は80パーセントを超え、月面に降り立ったニール・アームストロング船長の「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」という名言は、今でも多くの人々の心に残っているはずです。

この歴史的な快挙の中で私が大きな衝撃を受けたのは、当時、同時通訳の草分け的存在だった西山 千さんの通訳でした。
雑音で聴き取りにくい宇宙空間との交信の内容を的確に日本語に通訳し、茶の間にいる私たちにその興奮を伝えてくださいました。
私が大学を卒業してから翻訳の道に進み、やがてはグローバルコミュニケーションの担い手を目指して家族を伴ってアメリカに留学することを選ぶモチベーションになったのも、この西山さんの通訳に触れたからではなかったかと今になって思います。

実は、西山 千さんについてはエピソードがあります。
アメリカ留学から帰国後しばらくして、訪日したアメリカ人教会幹部の通訳をしたことがありました。
後で聞いたのですが、その会に西山 千さんが出席しておられたというのです。
もちろん、直接お会いしていないので私の通訳への感想を伺うことはできませんでしたが、私にとってこの出逢いはその後の大きな支えになりました。
たまたまではありましたが、西山さんという通訳の第一人者に自分の通訳を聞いていただいたのです。

今から1,300年前、唐に住んでいた鑑真に日本に来て仏教を広めるきっかけを与えたと言われる詩があります。

山川異域風月同天(山川域を異にすれども、風月天を同じうす)

「住むところは違っていても、風月の営みは同じ空の下でつながっている」

この詩を送られた鑑真は、日本には仏教の教えが浸透しつつあると考え、日本に渡ることを決意したと伝えられています。

中秋の名月はこの「風月の営み」の大切さを改めて教えてくれました。
住む国や言語、立場は異なっていても、たとえパンデミック下で実際に顔を合わせる機会がなくても、人の幸せを願う真摯な想いは時間と空間を超えて必ず届くということです。
この真実をこれからも忘れずに大切にしていきたいと思いました。

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